星の瞬く音が聞こえそうなほど、しんと静まり返った真夜中。
見上げれば真っ暗な空には、無数に煌く小さな星と凛とした姿で輝く白い月。
頬に触れる空気は、刺すように冷たくて。
吐いた吐息は白い弧を描いて、暗闇の中に溶け込んでいった。
―――ゴオォォォォン
耳を澄ませば、どこか遠くで鳴り響く除夜の鐘が聞こえてくる。
もうすぐ新しい年の始まり。
「こんな都会でも聞こえるんだな・・・・除夜の鐘。」
ぼそりと呟いた、隣を歩くあなたにあたしは“そうだね”と小さく答える。
あ、あたしも今、おんなじことを考えてた。
たった、ほんの小さな偶然なのに。
なぜかそれが嬉しくて。
でも、その緩む頬を見られるのが恥ずかしくて、白いマフラーに顔を埋めた。
やがてたどり着いた、近所の神社。
そんなに大きくない神社なのに、歩いてきた道とは正反対に多くの参拝客が押し寄せていた。
境内にはほんの少しだけど露店も出ていて。
その露店が照らし出す灯りが、冷えた空気を少しだけ和ませていた。
順番を待ってお参りをする。
願うことは毎年同じだけれど。
また来年も、一緒に過ごせますように
手を合わせてお願い事をしている間に、その想い人をこっそりと覗き見ると。
隣のあなたも、何か一心に手を合わせて祈ってる。
なんてお願いをしてるのかな?
あたしと同じだと・・・・・いいな。
お参りを終えて帰る途中の道も、境内を抜けるまではすごい人の波。
その波にさらわれてしまわないように、あなたはあたしの手を繋いでくれる。
もう何度こうやって手を繋いだかわからないのに。
それでもあたしは、手を繋いでくれるたびに嬉しくて、まだちょっぴり恥ずかしい。
あなたはどうなのかな?
見上げたあなたは、“う~、寒い”と言って空色のマフラーに顔を埋めていたけれど。
でも頬が少し紅いのは、あたしの気のせい?
その顔を埋めた姿がみのむしみたいに思えて、なんだか少し、笑ってしまった。
“寒い寒い”と繰り返すあなたに、あたしは境内の端で売ってる甘酒を飲もう、って誘う。
甘酒を2つ頼んで、1つはあなたに手渡す。
独特の匂いが鼻をくすぐって、一口口に含むとその香りは口中に広がった。
“あ~、暖まる”と嬉しそうに笑うあなたの顔が、またあたしを幸せな気持ちにさせてくれる。
でも、“やっぱ酒だったらビールか日本酒だな”って不満そうに言うあなたに呆れ顔。
んもう、これがお正月っていう風情なのに、相変わらずわかんない人ね。
なんてため息混じりに思うのも毎年のこと。
だけど、この変わらないことが何より嬉しい。
ずっとずっとこうやって年を重ねていければいいな。
あ、そうお願いすれば良かったかな?
神様、今ここでお願いしなおしてもいいですか?
これからもずっとずっと、この人と一緒にいられますように
って。
甘酒を飲み終えて、身体も少し温まって。
帰ろうと再び歩き出した瞬間。
あなたの着けてる腕時計が“ピピッ”と時刻を知らせてくれた。
新しい年の始まり。
「おめでとう、沙羅。」
「おめでとう。」
お互いに挨拶を交わして、あたしたちは微笑みあった。
こうやってまた来年も言えるといいな。
そして
今年もよろしくね、忍。
-終―
【いろはの言い逃れ】
一週間経ったのに、まだお正月SSですかっ!
しかも大晦日設定・・・・・ダメダメじゃんorz
ちなみに、私は甘酒が飲めませんv
(酒飲みなのに、酒粕アレルギー持ちってどうよ・・・・大爆)