カーテンをも通り越して窓から差し込む眩しい光。
ちゅんちゅんと朝を告げてさえずる小鳥の声。
カチャカチャと音を立てあう食器の音と香しいコーヒーの香り
そして、扉越しに聞こえる母と子の会話。
それがこの地に戻ってきてからの俺の目覚まし代わり。
もう少し・・・・と再びシーツに包まってまどろんでいると、パタパタと軽い足音が扉の向こうから近付いてくる。
「おとーさん、もうあさだよー!おきてー」
子供特有の甲高い声が部屋に響き、俺に起床を促す。
これもまた、いつものこと。
『おー、んじゃ起きるとするか』
と応えて起きるのがいつものやりとり・・・・・だが。
今日は敢えてその言葉のやりとりはせず、無視を決め込む。
すると、開いた扉からもう一人の声が耳に届く。
「翔、ほら早く朝ごはん食べちゃいなさい。保育園に遅れるわよ!」
そう、今日という日だけはこの声の主に起こされたい、というのが俺の願望。
なんてったって、今日は“俺の誕生日”なのだから!
このトシになって誕生日を祝って欲しいというのは、些か子供染みたことなんだろうが。
だからといって、誰にでも祝って欲しいわけでもない。
俺が祝って欲しいやつはただの一人!なんだが。
帰ってきて以来、あいつを俺一人で独占することができなくなってしまった。
強力なライバルが一人、出来ていたからだ。
・・・・・・・まぁ、結果としてはイイコトなんだろうけど。
でも俺としては面白くないわけで。
だから“今日”という日だけは、俺の希望を叶えたくて・・・・・・まずはおはようのチューなんぞを・・・・・ぐふっ(壊)
「おかーさーん、おとーさんおきないよー。」
「んもう、仕方ないねぇ。」
と呆れた声が聞こえてくる。
しめしめ、これで作戦通り。
ここで仕方なく起こしにきたあいつに・・・・・・と一人ほくそ笑んでいたら。
「もう、ほっといていいわよ。翔、遅れちゃうから早くしなさい!」
「はーい。」
―――パタン
と無情にも扉の閉まる音と共に、俺の野望も粉々に潰えてしまった。
ち・・・・・・・
ちぃっくしょーーーーーーっ!!!!
ていうか、帰ってきて以来、俺への扱いがぞんざいになってないか!?
確かに数年、離れていてしまったし、月へ行くことを決めたのは俺だから仕方ない。
それに子供ってのは手がかかるってのもわかる。
でもよ、でもよっっっ!
こんなのってあんまりだぁぁぁぁぁ(泣叫)
ふんっ、こうなったらもう不貞寝してやるよっ!
それから俺は本当に寝てしまったらしく、次に目を覚ました時には二人の姿は家のどこにもなかった。
とりあえず、今日は軍に顔を出さなくちゃいけないし、一人もそもそとベッドから起き上がる。
やっぱ、俺の誕生日なんてどうでもいいんだろうなぁ。
とか
ひょっとして忘れてやがる!?
とか、先程の落胆から立ち直ることも出来ず、どこか重い足取りでリビングへと向かうと。
テーブルの上には俺一人分の朝食が残されていた。
冷めてしまったコーヒーを温めなおして席へと座ると。
ふと一枚のメモが目に止まる。
『忍へ。
HAPPY BIRTHDAY!
今日はお祝いのご馳走を作るから、早く帰って来るんだよ!
沙羅&翔』
言われなくったって早く帰ってくるさっ!
俺も単純なもので、このたった一言で今までの落ち込んでた気持ちは一瞬にしてどこかへ行ってしまった。
用意してあった朝食を平らげ、コーヒーを飲み干すと。
俺は軽い足取りで軍へと向かった。
今日の夜を楽しみにして。
【いろはの戯言】
書くつもりはなかったけど、思わず浮かんだネタで書いてしまった忍さんBDSS。
思いっきりお笑いに走ってますケド(爆)
それにしてもこの忍さん、どうしようもなくおバカさんですね。
ゴメンなさいです、忍さん(汗)
時代風景(?)としては『証』後となってます^^;